スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

  1. -------- -- --:--|
  2. スポンサー広告

「といき」と「吐息」



この記述に対して友人が「借字なのかこれ」と驚いていた。
意外に感じるのも頷けるので、すこし調べて返答してみた。
以下、そのツイートのまとめ。


字面からは漢語由来のような印象を受けるけれど、ざっと探した感じ、漢籍で「吐息」の用例は見当たらない。借字というのはつまり、「ト」(借音)+「いき」(正訓)で、「吐」は漢字音を借りているだけということ。たしかに「トソク」(※1)ではなく「トいき」であるということも、漢字表記「吐息」に先立って和語「といき」があったことを示すように思う。

通常「――をつく」「――をもらす」という言い方がされることからも、「吐」の表意性が必ずしも不可欠ではない印象は受ける。実際、「といき」に「大息」の表記が充てられていた辞書(ヘボン『和英語林集成』)もある。

でも、「~と吐息していひけり」(『御伽物語』巻一、第九。延宝五(1677)年刊)とか、「僧吐息して、右の事かたる」(同巻五、第九)のように、「――する」の用例も見られ、ここでは「吐」が表意性をもって使われているように感じる(息ヲ吐クコトヲする、といった意)。

実際の語源はどうあれ、「吐息」という表記はそれがなされた時代の語源理解の反映と見るべきだろう。だから借字といっても、置換可能な無意味な表記ということではない。その点は現代の我々が「吐は借字」という説明を見て意外に思うという事実が傍証している。語源としてはおそらく「と≠吐」、けれども実情は「ト=吐」として機能している、と考えるのが穏当だろう。

また、読みの現象面から言えば、結果として重箱読み(音読み「ト」+訓読み「いき」)になっている。ただ、「ト」を借字と考えるならば、漢語+和語(例「重+はこ」)ではないから、語源的には典型的な重箱読み語とは異なる。

ちなみに「といき」自体、比較的新しい語のようで、室町時代の説話集『吉野拾遺』(14C後)に「やうやう逃げのびて、といきもつきあへず」とあるのが今確認できる初出のようだ(『日国』参照)。同時代には「乾闥婆城者……彼吐息時緑潮種種宮殿形現也。……是皆無実体」(源豪『四度授法日記』14C末)という「吐息」の例もあるが、これは幻術(息を吐くと幻の城が現れる、蜃気楼)の描写で、いわゆる「といき」ではない。こうした例の存在は、この頃にはまだ「といき」という語に「吐息」の表記が密接していなかったことを示すようにも思う。

ただ、確かに「吐息」はぴったりの表記だと思う。「吐息する」という用例が生じるのも、これが借字だと聞いて意外に思うのも、頷けるくらいには。


※1「ソク」は呉音。漢音は「ショク」。
  1. 2015-05-14 Thu 02:44|
  2. 文学

<<新しいエントリ| トップ | 古いエントリ>>
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。