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読んだ小説等の感想(2015年12月)

先月の読書メモ。

穂村弘『本当はちがうんだ日記』
野崎まど『野崎まど劇場(笑)』
巌谷小波『こがね丸』
泉鏡花『外科室・海城発電 他5篇』

穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社文庫)
「今ここにいる私は「私のリハーサル」なのである。これはまだ本番ではない」(p.13)という「私」のあり方は第Ⅰ部に凝縮しているが、第Ⅱ部・第Ⅲ部で趣はガラリとかわる。「「この世」の大穴」(pp.180-183)に対する抵抗感はそれを象徴するもの。「その日から私の本番が始まった」(p.205)というあとがきの話は、意識変化の段階としてはこのあたりに入りそう。「たとえそれがより悪い穴であっても、間違った穴であっても、とにかくその魂が最後の大穴にだけは吸い込まれなかったという一点の印象」(p.183)に惹かれ、自らもまた「汚くても、下手くそでも、なんでもいい。ぐちゃぐちゃに色を塗り始めたのだ」(p.205)という。そこには「素敵レベル」を高めることが必ずしも本番の私としてのあるべき姿ではない、という転換がある。ついに始まったその本番は、冒頭に求めたそれとは全く異なるだろう。素敵レベルは低くとも、否、だからこそ、その「私」が大穴に吸い込まれることはなさそうだ。或いは、かつて憧れた既存のそれとは違うけれども、これをしも「素敵」と言うべきか。



野崎まど『野崎まど劇場(笑)』(電撃文庫)
あいかわらずぶっとんでいる。ハヤカワから出ている作品と同じ作者だとは思えないくらい。『劇場』二冊については装丁も含め、レーベルがよくこの発想に応えているなあと思う。ただ無意味にふざけているわけでもなく、小説なるものの可能性や限界を一つ一つ検証するかのような作品群であることは、さすがこの作者といったところ。電子書籍版も出ているが、紙の本で読んでこそ真価のわかる作品も多い。逆に、電子書籍でこそ活きる作品も見てみたい気がする。本書所収の「ワイワイ書籍」みたいなものを、実際に。



巌谷小波『こがね丸』(日本近代文学館)
勧善懲悪の復讐物。悪役も含めて愛すべきキャラクターが多い。特に印象深いのは鼠の阿駒。その最期の語り(第九回)、六百字に及ばんとする七五調の台詞はまさに圧巻。涙なしには読めないだろう。文語体で書かれた本作は、後に口語体で書き直されているが、この阿駒の台詞などは口語化と同時に大幅な縮小改変が施されている。読むなら断然、文語体のほうがおすすめ。ちなみに、「かちかち山」「猿蟹合戦」「桃太郎」などを踏まえた設定もさり気なく取り入れられているので、これらの話を忘れている場合は先に梗概を確認しておくとよい。
なお、『名著復刻 日本児童文学館 第二集 こがね丸』(ほるぷ出版)は、1921年版(口語体)の復刻なので注意。日本近代文学館の復刻版(上記リンク先)や岩波文庫の『日本児童文学名作集 上』所収の本作は1891年版(文語体)に基づく。


泉鏡花『外科室・海城発電 他5篇』(岩波文庫)
①義血侠血……事実だけを淡々と記す最後の七行が実に重い。救いのない、バッドエンドの極み。欣弥が義を貫き、白糸が侠を貫いた故の悲劇。喜劇めいた冒頭をあらためて見返すと、その賑々しさに心が痛む。
②夜行巡査……「恕すべき老車夫を懲罰し、憐むべき母と子を厳責」する一方で、「悪魔を救わんと」身を投じる巡査。どちらも目前の職掌に尽瘁する性の表れだが、長期的に見ればいずれの行動も益とはなるまい。悪魔を救えばいずれ女の身を危うくすることは知れているのだから。小説としてはやや教訓的に過ぎる感あり。
③外科室……究極の一目惚れ。上を読み、下を読み、再び上を読むべし。上の末尾、高峰の「忘れません」に続く三文が至高。特に、声・呼吸・姿の二度の繰り返し、高峰の存在を焼き付けんとする夫人の聴・触・視覚の最期の働きを表現しきって余りある。そこから「唇の色変りたり」へ落とし込む巧みさは流石と言う他ない。鏡花作品に名文多しと言えど、なお見出し難い屈指の名文。
④琵琶伝……壮絶な最期の後、葬地に響く琵琶の声。全ての主要人物がいなくなり、物語の装置であり導き手であり傍観者であるところの鸚鵡のみが残される。「琵琶伝」たる所以。
⑤海城発電……本書所収作品の中では異色。職責を全うし、信念を貫く姿は「義血侠血」の主人公に通じるものがあるが、本作は自殺オチではない点に特徴がある。前四作はいずれも自殺あるいは自らの命を顧みない行動による死で結ばれる。発想を同じくするならば、本作の神崎も李花の死を黙認することで信念を貫いた後に自殺しそうなものだが、そうしたことは語られない。これらの作とは全く主題を異にすると考えるべきだろう。
⑥化銀杏……バッドエンドはもう食傷気味だが、女の長い独白はさすがに読ませる文章。女の生き方について考えさせるような内容で、毛色としては「琵琶伝」に近いか。丸髷と銀杏返しの違いに注意して読むべし。
⑦凱旋祭……「海城発電」同様、時局に対する反感が透けて見える。しかしこちらは、人間の心理的問題に踏み込むような深まりもなく、小品と言うべき作。

  1. 2016-01-04 Mon 14:35|
  2. 読書メモ

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