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平野秀吉と『萬葉集』

僕の母校の校歌は平野秀吉という人物によって作詞されている。
漢詩の表現をふんだんに盛り込んだ格調高い歌詞で、生徒手帳には諸橋轍次(『大漢和辞典』編者)による校歌の「解釈」が記されているほどである。在校時には単にすごい歌詞だなという程度の感想しかもっていなかったが、後にこの作詞者が『唐詩選全釈』という書を著していると知ってなるほど合点がいった。その方面に精通した人物だったのだ(※1)。

平野秀吉の本業は教育者であるが、その著作は多岐にわたる。二十二歳の時に刊行された共著の『実用文典』(吉川弘文館、明治28年)を始めとして、『国語声音学』(国光社、明治35年)、『綴り方教授の根本的研究』(六合館、大正4年)、そして上記『唐詩選全釈』(東洋図書刊行会、昭和4年)等である。また、登山を愛好し、『日本アルプス登山案内記』(斯文書院、昭和2年)も著している。

しかし、その最も大部の著作は『全釋萬葉集昭和略解』の名で知られる『萬葉集』注釈書である。最初の脱稿が大正12年というから、そのとき刊行されていれば近代に入ってからはじめての『萬葉集』全巻に亘る注釈書になっていただろう(※2)。だが、その後二十年間を修訂に費やし、昭和18年にようやく刊行されようとしたものの、戦時の混乱から未刊となってしまった。残念というほかない。

ただし、そのうちの総論、巻一、二、三、十四にあたるものは昭和55~58年に平野秀吉の郷土である巻町(現・新潟市)から「巻町双書」の一部として刊行された。すべての原稿は今も巻郷土資料館に収められているが、残りが刊行されることは望めないだろう。

「巻町双書」のそれは今も巻郷土資料館で購入することができる。その他、『平野秀吉資料目録』や『平野秀吉萬葉集短歌選』も販売されている(※3)。『資料目録』によれば、平野秀吉の『萬葉集』関係原稿は他にも「萬葉集動植物考」、「人物考」、「枕詞考」等があるという。いずれもかなりの分量とのこと。本としての刊行は難しいにせよ、いつか電子資料としてでも公開されないものだろうか。誰に読まれることもなく大事にしまいこまれているだけでは、あまりに惜しい。



『全釋萬葉集昭和略解 総論・巻一・巻二』 3,500円
『全釋萬葉集昭和略解 巻三』 2,500円
『全釋萬葉集昭和略解 巻十四』 2,000円
『平野秀吉資料目録』 400円
『萬葉集短歌選』 400円



※1
ただし、校歌の制定は明治38年で、同書の刊行以前。

※2
折口信夫の『口譯萬葉集』が大正5~6年に文会堂から刊行されているが、訓みと訳のみであり、細かな語注や訓釈は記されていない。また井上通泰『萬葉集新考』は大正4年に刊行が始まった全巻の注釈書だが、完結したのは昭和2年である(なお、この時点では正宗敦夫の歌文珍書保存会からの「頒布」であり、公刊は昭和3~4年)。また、中島友文『校正萬葉集通解』も明治十八年に成るが、未刊。

※3
「巻町双書」はその多くが絶版となっている。市町村合併によって新潟市となった現在、再販は見込めないだろう。『全釋萬葉集昭和略解』も在庫がなくなればそれまでであり、古書としても入手は極めて困難になることが予想される。必要な方はお早めに。



追記(2015/11/03)
この記事を書いた後、平野秀吉関係資料について市民からの要望があったようだ。それを受けて『萬葉集動植物考』のコピーが巻図書館で貸出可能となった。先日確認してきたが、コピーとは言えとても綺麗に製本されていた。今後他の資料についても、同様の措置をとっていただければと思う。特に、何を措いても『昭和略解』の未刊分だけはぜひ。
  1. 2014-03-01 Sat 01:31|
  2. 文学

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